守られる一人の男と12人の目 <主要人物> 連城光(18):主人公。あらゆる点で普通。 香宮可奈(18):光の恋人。明朗快活。 神城丈治(34):光の護衛の一人。体術が得意な巨漢のSAT隊員。 ルーク・ヘイワーズ(25):光の護衛の一人。米国特殊部隊SWAT所属でナイフの達人。 デュクセン・ラスラフ(30):光の護衛の一人。露西亜連邦保安局所属の凄腕スナイパー。 ラウリック・ザッハトルテ(28):光の護衛の一人。英国情報部所属で、部隊への指示と記録報告を担当。 マルセン・シイナ(44):光の護衛の一人。日本人と仏蘭西人のハーフ。部隊の隊長を務める仏蘭西DGSE特殊部隊所属の厳格な猛者。 勝瑞茂樹(18):光の親友。 大乗芳文(30):光のクラスの担任。担当は体育。 松原杏子(41):光のクラスの副担任。担当は物理。 メラ(?):謎の女。 ケイン(?):謎の男。光を監視している。 第二章:翻弄の一日 <第三視点より> いい朝だ。 昨日はいろいろあったが目覚めは良かった。 護衛の人達もいつも通りに動いている。 ラウリックさんお手製の弁当を受け取り、今日も俺は高校へ向かう。 ルークさんと神城さんを両サイドに連れて… 到着してみれば担任も来ていた。 一瞬目が合ったときに何とも言えない不可解な顔をしたが、直ぐに何時も通りのうっとうしい笑顔に戻った。 ちぇ、遅刻しなかったか。 教室に入るとルークさんは教室の後ろに、神城さんは廊下にスタンバる。 二人が来てからというもの、教室内の治安が妙に良くなった。 まあ、無理もない。 休み時間になると、可奈が飛び込んでくる。 これも何時も通り。 クラスが違うので、普段会えないぶん必死のようだ。 しかし今日は可奈とは話さない。 ちょっと用事があるのだ。 そう、ちょっとした… <第六視点より> …妙だ。 何かがおかしいのだ。 だが、其れに私は気付けなかった。 明らかに昨日は何時もとは違っていたのに。 其れがどう違うのかが出てこない。 何だ? 私は何に気付けていない? ヘイワード、神城両者は既に光君と学校へ向かった。 ザッハトルテは其処で仮眠を取っている。 ラスラフは… そうだ…ラスラフだ… 私は昨日の騒ぎでラスラフと交代をしていない! あの男は性分が固い。 こうと決めたモノはこうとしかしない、そういう男だ。 あいつが本来仮眠する時間、私は此処に居た。 あいつは本来休む時間に休んでいない。 あいつは午前二時に、確実に睡魔に襲われたはずだ。 仕事熱心なあいつの事だ、寝ずの番をしているに違いない! すまん、今行くぞ! <第五視点より> ようやく休み時間! さあ、光と喋れる少ない時間が来たよ! …って張り切っていたのに。 あのバカ、勝瑞君と話す事があるからって断るなんて… でも、何の話だろう? 今まで私より優先することなんて滅多に無かったのに… 大体、光が親友だからって言うからちょっと話したけど、あの勝瑞君嫌いなんだよね! いっつもブツブツボソボソ話すし、何考えているのかさっぱり分からない辺りが気持ち悪いし! こうなったら盗み聞きするしかないね!うん! <第十一視点より> 珍しく光がボクの所に向かってくる。 ボクに何か用なのか? ボクはこう見えて忙しいんだ、やらなきゃいけない事が沢山有るんだ… よほどの事じゃなかったら無視しよう。 あいつは油断すると図に乗るからな。 あのいけ好かない女と付き合っている事を聞かされたときもウンザリしたもんだ。 ボクに関係の無い話なのに、あいつは長々と俺にどうしたらいいだろうとか訊いてきた。 全く…今日は何だ? 仕方ない…聞いてやるか… <第三視点より> 茂樹に話そうと思ったことは、昨日の事だ。 不可解なタイミングで不可解な時間に現れた担任の大乗。 タイプからしたら全く正反対のようなものなのに、こいつはよく大乗と話している。 こいつなら何か知っているかもしれない。 まあ、どうせ大した事じゃないだろうけど… <第二視点より> まずい事に成った。 突然の通信。 隊長の声は何時もよりも更に低く聞こえた。 一体どうやって? 隊長から大体の予想は聞いたがどうだろう? 確かにあの人はそういう人だ。 だが、必ずしもそう成ると言えるのか? 廊下の神城も報告を聞いただろう、あいつと相談するか? いや、今の状況からしたら、光から離れるのはまずい… 今も彼は友人と話し込んでいるが、そいつがもし… いや、考え過ぎか。 しかしやはり目は離せない。 くそ… くそ…!! 信じられない! デュクセンさんがやられたなんて! <第九視点より> 全く持って此の世は分からない。 まさかあの男が殺られるとは… 全く…此れだから生きる事は楽しい! あの目障りなスナイパーが死ぬなんて! 此れで仕事の能率は大幅アップだ! しかし…せっかくのチャンスを失ったのは拙かった。 距離を縮めたはう良いものの、まさかあの御方があそこにいるなんて! さらに一時撤退してみれば、さらに不思議なモノを見た。 アレは何だったのか? 絵本に出てくる天使の様な印象を受けた。 厳密に言えば、天使では無い。 羽根も無かったし、輪も無かった。 だが、不思議と私はそう思ってしまった。 何故かは分からないが、そう、脳は認識したのだ。 まあいい。 どうせ其の天使ももう居ない。 今日だ! 今日こそは…!! <第三視点より> 茂樹は最初、相変わらずのそっけない態度だった。 「まあ話は聞いてやるが、どうでもいい」とでも言いたげないつもの態度だ。 だが、俺が話し始めると、あいつの目の色が変わった。 やっぱりこいつは何かを知っているんだな? さあ、話してみろ! さあ! さあ! <第十一視点より> 興味深い! まさかそんな面白い事があったなんて! ボクの予想を遥かに超えたヤツだよ光は! 大乗が動いていたんだ! ハハ!あいつが?傑作だ! ならばボクも動くしかないじゃないか! こいつには知らないが興味があるとだけ言っておけば良いだろう。 後は勝手にボクが大乗に聞いてくれると思うに違いない! なんたってこいつは「普通」だからな! ハハ!今夜が楽しみで仕方ない… ハハ…ハハハ…アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ… <第三視点より> 家に帰った俺は愕然とした。 あのデュクセンさんが殺されたらしい。 そんなバカな! 何時だ?何時なんだ? 昨日の夜…あの時だ! 大乗が来ていろいろとうるさかった昨日! いよいよ大乗は怪しいぞ! 茂樹が探りを入れてくれるだろうけど…あいつは大丈夫なのか? 今は信じる事しか出来ないが… <第八視点より> ふむ…どうするかだな。 今日の連城は明らかに私を疑っていた。 先生は何も悪い事はしていないぞ! そうさ、ただ家を訪ねただけさ。 さて、そろそろ来るかな? さあて… <第十二視点より> …何故この子が此処にいるのかしら? 勝瑞茂樹 いつもくらい雰囲気の生徒。 私の授業の時は一番態度が悪い。 いつも何も分かっていないと言いた気に此方を見ている。 気持ち悪い子だ。 しかし此処で動揺しちゃいけない。 教師とは例えどんな風だろうが、生徒を見捨ててはいけないのだ。 此処で拒否をすれば私の信用に関わる。 入れるしかない。 ああ、でもどうしたらいいと言うの? どう説明すれば… <第六視点より> 異常は一つでは無かった。 ラスラフの件を報告する前に、本部から連絡が入った。 我々の最大の味方であるはずの者が消えてしまったのだ。 元はといえば、あの者の一言で今回の騒動は起こった。 我々が動いた。 そして…ラスラフが死んだ。 しかし妙なのだ。 ラスラフといいあの者といい、何故、そして誰が狙ったのか? いくら眠気に襲われていたとはいえ、あのラスラフを殺る程の者がいるなら何故仕掛けてこない? 今も、そして過去にも… 光君がああなのは今に始まった事ではない。 ずっと前からだ。 そして最大の謎は、何故誰も今まで…いや、今も不思議に思わないのか? あの少年は何なのだ? あの者は何も言う前に消えてしまった。 我々はどうすれば良いのだ? 何をしているんだ! <第五視点より> 光は家にいるかな? いるよね! いないはずがないもの! 今日はどうしようかな? 何をして遊ぼうかな? それとも…ううん、まだ早いよね! もっとゆっくり距離を縮めて… ゆっくり…そう、ゆっくりと… それまでは今のままでいいの。 何時も通りでいようね?光! <第二視点より> どうする? 見てしまったぞ。 俺は確かに見た! 報告するか?いや、出来るのか!? …そうだな。 どうせしても意味が無いさ。 … へっ… へへっ… へへへっ… やってやろうじゃんかよ! <第三視点より> …茂樹からの連絡は来ない。 護衛の人達もピリピリしてるし、居心地が悪い。 … … …あれ? これは何だ? 俺はこんなもの知らないぞ? でも…ずっと前からあったみたいだ。 誰のものだ? ここは俺の家だ。 俺以外の誰のものなんだ? …よし! … … … …どういうことだ? おかしいじゃないか!だって… <第七視点より> … … いい加減にしろよ… 俺をナメやがって! そういうことかよ! 何てバカバカしい話なんだ! たかが其れだけの為に!? とりあえず光はいい働きをしてくれたものだ。 他でもない俺にこいつを見せに来たんだからな! 上等だ… やってやる! <第九視点より> そろそろか… 成る程な。 あの男があの御方だったとはな。 全く…お陰で仕事が遅れたぜ。 でもまあ、此れで万事解決だ。 あの御方の言うとおりにしていればいいんだ。 クク… 笑いが止まらんな! 自分でも自分が信じられない! 世の中は何時からこんなに奇天烈に成った!? しかも現実ときている! どおれ…早速やるかな!! <第三視点より> 茂樹がやって来た。 いつもとは違うニヤつき方をしている。 何か掴んだんだな? けれどもう遅いんだ。 全て終わってしまうんだから。 そう、全てはあと30分以内で終結する。 全く…何てこった。 最初から決まっていたのか? だとしたらタチが悪すぎる! さあ、始めようか…この最悪なお遊戯の最終幕を! 第二章・完。第三章に続く…